とりあえずサーフィンできそうな準備は整った。
人々が上着をはおい、季節は冬になろうとしている11月上旬に海に入ろうとしているのだから「正気じゃ無い」と考えながら、くわえていたマルボロを灰皿にもみ消して、渋い顔をして波打ち際へ向かった。
サーフボードをどう持っていいのかも解らないけど、先行く友人を真似て、なんとなく小脇に抱えて俺と友人しかいない砂浜を歩いて波打ち際に向かった。
潮の香りに思わず「あ~海で遊ぶなんて高校生の時以来だな・・・」と背伸びをしながらつぶやいてしまう・・・まるで映画のワンシーンのようでそれだけで満足だ。
冷たそうな海を目の前に、心の準備というか、したことない準備体操をして、マジックテープでできたリーシュコードを見よう見真似で足首に巻いてみた。
冷たい・・・と思っていた海水は意外にも温かく、ウェットスーツを着てるおかげか冷たさや寒さなど一切感じない世界によく解らないが心が踊る。海に入る前のかったるさは寒さに対する嫌悪感だったのだろうと気づいた瞬間だ。
友人は慣れた感じでボードに寝そべりパドルを始めて沖へ向かってしまった。俺も追いかけようとボードに寝そべってみたが、思いのほか不安定なボードにあっという間に振り落とされてしまい、水深60cmくらいの場所で溺れそうになってしまった・・・あ~情けない。
2~3回繰り返し、パドルでは行けない諦めた俺は、リーシュコードを引っ張って歩いて沖へ向かうことにした。とは言っても岸からたったの20m程度しか離れていないのだが、それでも水深は1.5m程度はあり、波が来れば首まで到達するのでこれくらいが限界だ。
小舟に乗るような感じでサーフボードにちょこんと座り波を待ってみることにした。どうやって乗ればいいのか何一つ知らないくせにチャレンジ精神だけは旺盛なわけだ。スキーで培ったプライドが邪魔する。
とか考えてるうちにあっという間に波に飲まれて洗濯機のようにグルグル巻かれ、そんなのが何回も続いてワカメを被ったような髪型になり、さすがに精神的に凹んできたところで、大笑いしながら友人が近くにやってきてアドバイスをくれた。
「おまえまだ早いよ、まずは波打ち際で特訓だ」
こんな1mにも満たないチンケな小波でサーフィンなんてちゃんちゃら笑っちゃうぜ!とか言っていた自分が恥ずかしくて仕方が無かった。子供の頃、なぜか家にあったジグソーパズルは真っ青なチューブをくぐるサーファーの写真だったから、サーフィンはそんなイメージがあったのだ。
かくして俺のサーフィンデビューは九十九里海岸で洗濯機のようにグルグル回転するおかしな20才からスタートしたわけだ。